組踊 矢蔵ぬ比屋

公開日 2015年02月21日

登場人物

矢蔵方       屋蔵の比屋、呉屋の大役、嘉手苅の子
津堅方、棚原方   乙樽、虎千代、山戸、森川の比屋、内間の子
其の他       呉屋、う主前、ハー前、上地モーヤ、越来ドヤー、門番

解説

幸地の主屋蔵の比屋は、文武両面にすぐれている津堅田の按司を嫉み、この二人を亡き者にすれば身勝手なふるまいができると考え、策謀を企み二人の按司を討ち亡ぼし、美女から美女への色欲にふけり、我がまゝ気まゝな生活を楽しんでいた。

ところが津堅田の按司の遺児山戸と、棚原の按司の妻女乙樽と遺児の千代松が、どこかで生きていることを知り、彼等を生かしておくことは後日復讐に来ることを恐れ、家臣呉屋の大役と嘉手苅の子に対し、三人を探し出し生け捕りにして来るよう命じた。
二人は早速人々の口伝を頼りに村々を廻り、探し求めていたのであるが、乙樽と千代松が中城伊舎堂村に隠れていることを人伝に聞き早速そこに乗り込み、宿を取っている二人を見つけ捕えたのである。
捕らわれの身となった千代松は「我身や責みゆらば如何程ん責みり、頼んで母親や許ちたぼり。」と母親の身を案ずるのであるが、呉屋の大役は捕えた二人を矢蔵の比屋に引き渡した。矢蔵の比屋は直に二人を殺して捨てるよう命じるが、三十代の女盛りで美人の乙樽を見て殺すのを思いとどまり、「命は助けてやるから私の側女になってもらいたい。」と迫るのである

一方乙樽は、「玉や砕きてん光ある習い、竹や焼るとん節や失わん、女身ややてん義理や失なわん、かた時ん急じ殺ちたぼり。」と死を覚悟し、虎千代もこんなことになるよりは、早く死んで父親の元に行った方がいいと乙樽に死をすすめるのである。
それを聞いた矢蔵の比屋は怒り心頭に達し、即座に虎千代を殺すよう命じる。
驚いた乙樽は、「虎千代を助けるならお側女になってもいい。そのかわり私も長い間の苦労で体が弱っているので、医者に見てもらい健康な体になってからお側になります。」と願い出たのである。
喜んだ矢蔵の比屋は、早速それを許可し、虎千代を金武寺に預けることにした。
虎千代と別れた乙樽は、気遣いを装い、笑ったり踊ったりの毎日を過す。最初の頃は、矢蔵の比屋も医者を呼び薬を与え心配したのであるが、日が立つにつれて、嫌気がさし酒と女に明け暮らすのである。

戓る日乙樽は夢を見る。虎千代が自分と逢いに来る途中山道に迷い、山賊に殺される夢を。それ以来乙樽は、居ても立ってもおれず、虎千代と逢うため夜中に矢蔵の比屋の館を抜け出し旅に出るのであるが、途中暗闇にあい山中の老夫婦の家に泊めてもらう事にした。
ところがその夜、上地モヤ―、越来ドヤーの二人の山賊が現われ、乙樽は着物をはぎ取られ、そのうえ刀で刺され深い傷を負ったのである。乙樽は死に際老夫婦に
「私は棚原の按司の側女乙樽である。津堅田の按司と棚原の按司は、矢蔵の比屋の陰謀により此の世を去った。又産後の虎産子の虎千代は金武の寺にやられ、私はこのような哀な身となっている。私の死後虎千代に逢って、山賊を亡ぼし憎き矢蔵の比屋を討ち取り、親の仇を取るよう伝えてくれ。」と頼んだのである。又死後は是非金
武村に通ずる道側に葬ってくれと老人に頼んだ。

一方虎千代は母親乙樽に逢いたさのあまりお寺のお許しを得て旅立つのである。「ぬがし浜千鳥くいぐいと鳴ちゅる聞きば母親ぬ思影ぬまさて。」と母を慕って歌を口にしたのである。道中道端の墓に花を生け泣いている老夫婦に合う。虎千代は母親のことを思いつつそのわけを聞き、老夫婦の口から母親の死を知り、母親の墓前で死のうとするが老人の諭と母の遺言を聞いて仇討ちを決意するのである。
その夜老夫婦の家に泊まるのであるが、又もや二人の山賊が現われるのである。虎千代は、老人から授かった刀で、二人の山賊を手討ちにしたのである。

津堅田の按司の産子山戸が、伊集村に隠れて仇討の準備をしている事を知った虎千代は、二人の老人に別れを告げ山戸を尋ねて旅立つ、その時分虎千代のお守役森川の比屋は、ご主人棚原の按司の仇討ちを目指し、昼夜を問わず、村々を廻り散々になっている軍師を与那原に集め兵法の秘法を伝授させ、矢蔵の比屋の城を陥し入れる準備を整え、内間の(シー)を連れ中城伊集村の虎千代を尋ねる。
虎千代と山戸もひそかに兵法を学び、一人前の武士に成長していたのである。

四人は力を合わせ、直に矢蔵の比屋の城を攻め、矢蔵の比屋の妻子初め軍勢一人残らず討ち取り、憎き矢蔵の比屋を生け捕りにし、棚原按司の墓前において、拷問の末寸断に切られあえなき最期をとげたのである。

仇討ち取たる今日の誇らしやや
死じし二人所ん嬉しやみせら

(東江前区保存)

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